Manuel Morao(マヌエル・モラオ)

フラメンコギター

基本情報

Manuel Moreno Jiménez(マヌエル・モレーノ・ヒメネス)は芸名「Manuel Morao(マヌエル・モラオ)」として知られる、スペイン・ヘレスデラフロンテーラ出身の著名なフラメンコギタリストです。彼はヘレスのサンティアゴ地区(ヘレスのフラメンコの中心地)のカジェ・ヌエバ通りで生まれました。

経歴と功績

  • 8歳の時に偉大なマエストロであるハビエル・モリーナ(Javier Molina)に師事し、ギターを学び始めました。
  • 11歳から既にタバンコス(ヘレスの小さなバー)、フェリア(祭り)、ベンタ(田舎の宿)などで演奏し、生計を立て始めました。
  • 1945年、セビージャ滞在中にアントニオ・マイレーナ(Antonio Mairena)と出会い、ニーニャ・デ・ロス・ペイネス(La Niña de los Peines)やトマス・パボン(Tomás Pavón)といったフラメンコの大物たちとの交流が始まりました。
  • 1951年には映画「La Niña de la Venta」にローラ・フローレス(Lola Flores)やマノロ・カラコル(Manolo Caracol)と共に出演しました。
  • アントニオ・エル・バイラリン(Antonio el Bailarín、またの名をアントニオ・ソレール)のバレエ団の首席ギタリストとして約15年間世界各地をツアーしました。
  • 1953年にはヨーロッパと中東、1954年には南米、1955年には米国などを訪れています。
  • 1964年にヘレスに戻り、若手フラメンコアーティストへの指導やショーの制作に取り組み始めました。
  • 1967年に「Los jueves Flamencos(フラメンコの木曜日)」というイベントを創設(後に1970年には「Viernes Flamencos(フラメンコの金曜日)」に変更)し、現在もこの名前のイベントは続いています。
  • 1987年には「Manuel Morao & Gitanos de Jerez(マヌエル・モラオとヘレスのジプシーたち)」という会社を設立し、その後約10の著名なフラメンコショーを制作しました。
  • 彼の指導によって、ホセ・メルセ(José Mercé)、ラ・マカニータ(La Macanita)、アントニオ・エル・ピパ(Antonio el Pipa)、サラ・バラス(Sara Baras)など、多くの著名なフラメンコアーティストが育ちました。
  • 1985年と1986年には米国でツアーを行い、ニューヨークのカーネギーホールでの公演で締めくくりました。

演奏スタイルと特徴

  • モラオはカンテ(歌)やバイレ(踊り)の伴奏に特化したギタリストとして知られています。
  • 彼自身の言葉によれば「ギターフラメンコはカンテとバイレを伴奏するためのものである」という考え方を持ち続けていました。
  • リズミカルな演奏が特徴で、特にコントラティエンポ(拍の裏)の使い方に革新性がありました。
  • ブレリアス(フラメンコの一種)の伴奏では、特に美しい音色を奏でることで知られています。
  • アルサプーア(親指で演奏する伝統的な技法)のスタイルを最大限に発展させた数少ないギタリストの一人とされています。

家族と伝統

  • 「モラオ一族」は、ヘレスを代表するフラメンコの名家の一つです。
  • 弟のフアン・モレーノ・ヒメネス(Juan Moreno Jiménez、「フアン・モラオ」として知られる)も著名なギタリストでした。
  • 甥のマヌエル・モレーノ・フンケラ(Manuel Moreno Junquera、「モライト・チコ」として知られる、1956年-2011年)は、叔父と父親の後を継ぐ形で現代フラメンコギターの重要な担い手となりました。
  • 孫のディエゴ・デル・モラオ(Diego del Morao、1978年生まれ)も現代の著名なフラメンコギタリストの一人です。

受賞歴と栄誉

  • 1964年:セビージャ商工会議所より「Giralda de Plata(銀のヒラルダ)」ギター第一位賞
  • 1965年:コルドバにて、観光情報省より「Premio Nacional Patiño(パティーニョ国民賞)」
  • 1969年:ヘレスのフラメンコ学科より「Premio Nacional de Guitarra(国立ギター賞)」
  • 2016年:ヘレス市の「Hijo predilecto(名誉市民)」に選出
  • 2023年:94歳の時に、第1回「Paco de Lucía Award」のレジェンド賞を受賞(孫のペペ・デル・モラオが代理で受け取り)

Manuel Moraoは、伝統的なフラメンコの継承と発展、そして若い世代への指導を通じて、フラメンコの世界に大きな足跡を残した偉大なマエストロです。彼のモットーは「本物であること(ser auténtico)」であり、彼のギタースタイルはヘレスのフラメンコギター奏法の重要な一部となっています。