Ramón Montoya(ラモン・モントーヤ)

フラメンコギター

ラモン・モントーヤ – フラメンコ界の偉大なる革新者

生涯と経歴

ラモン・モントーヤ・サラサール(Ramón Montoya Salazar)は、1879年11月2日にスペインのマドリードで生まれました。スペインのジプシー(ロマ)の家系に生まれ、彼の家族は牛の取引を生業としていました。若い頃には馬を扱う技術も持っていたと言われています。

幼少期から音楽に興味を持ち、マドリードの路上で演奏する盲目のギタリストたちの手さばきを観察していました。彼は父親のアキリーノ・モントーヤから最初のギター指導を受けたとされていますが、その後「エル・カニート(El Cañito)」というギタリストから基本的な技術を学び、さらに自身のスタイルを発展させていきました。

14歳の頃からマドリードの「カフェ・デ・ラ・マリーナ(Café de la Marina)」をはじめとする「カフェ・カンタンテ(café cantante)」と呼ばれるフラメンコ音楽が演奏される場所で活動を始め、プロのギタリストとしてのキャリアをスタートさせました。

アントニオ・チャコンとの共演

ラモン・モントーヤの音楽キャリアにおいて最も重要な出来事の一つは、1912年から始まった偉大なフラメンコ歌手アントニオ・チャコン(Antonio Chacón)との長期的なコラボレーションでした。2人は1922年にグラナダで開催された「コンクルソ・デ・カンテ・ホンド(Concurso de Cante Jondo)」という重要なフラメンコ大会にも参加しています。

チャコンとモントーヤのパートナーシップは、現在認識されている様々な伝統的なフラメンコの「カンテ(cante、歌)」の形式を確立するのに大きく貢献しました。チャコンはモントーヤを常に最高のギタリストとして評価していました。

革新的なギタリストとしての功績

モントーヤの最も重要な功績の一つは、伴奏楽器として脇役だったフラメンコギターを、ソロの主役楽器として確立したことです。伝統的なフラメンコでは、ギターは歌(カンテ)や踊り(バイレ)を支える脇役でしたが、モントーヤはその役割に挑戦し、コンサート形式でソロギタリストとして演奏するようになりました。

彼は20世紀で最も影響力のあるフラメンコギタリストとされ、サビーカス(Sabicas)やパコ・デ・ルシア(Paco de Lucía)などの後の偉大なギタリストたちの道を開きました。フラメンコギター史において「モントーヤの前と後」というように区分されるほど革新的な存在でした。

技術的革新と演奏スタイル

モントーヤは当時のクラシックギターの巨匠ミゲル・リョベット(Miguel Llobet)の技術に強く影響を受け、フランシスコ・タレガ(Francisco Tárrega)の古典ギター奏法をフラメンコギターに取り入れました。

彼の革新的な技術には以下のようなものがあります:

  1. ロンデーニャ(Rondeña)の創造: ギターのための最初のコンサート用パロ(スタイル)と言われています。特殊なチューニングを用い、6弦をミからレに、3弦をソルからファ♯に下げて演奏します。
  2. グラナイーナ(Granaína)とミネーラ(Minera)のスタイル確立: これらの様式のギター独自の奏法を確立しました。
  3. アルサプーア(Alzapúa)技法の発展: 親指-人差し指-親指という打弦パターンを用いる技法で、フラメンコギター特有の音色を生み出します。
  4. 高度な和声と転回形の導入: チャコンとの共演を通じて、フラメンコギターの和声を豊かにしました。

国際的活動と録音

1936年9月、彼の元生徒であった芸術家マリウス・デ・サヤス(Marius de Zayas)の後押しにより、モントーヤは国際的なキャリアを開始しました。1936年から1938年にかけて、ヨーロッパやアメリカの名高いコンサートホールで演奏し、フラメンコギターを国際的に認知させました。

1936年10月にはパリで初のソロギター録音を行いました。それまでは主に歌手の伴奏者として録音していました。多くの著名な歌手と共演し、ニーニャ・デ・ロス・ペイネス(Niña de los Peines)やペペ・マルチェナ(Pepe Marchena)など、フラメンコ界の巨匠たちとの録音を残しています。

また、サクソフォン奏者フェルナンド・ビルチェス(Fernando Vilches)とのデュオ録音も行い、初期のフラメンコ・フュージョンとも言える革新的な作品を残しています。

遺産と影響

ラモン・モントーヤは1949年7月20日、69歳でマドリードにて亡くなりました。彼の甥であるカルロス・モントーヤ(Carlos Montoya)も著名なフラメンコギタリストとなりました。

モントーヤの革新的なスタイルと技術は、フラメンコギターの発展に大きな影響を与え、「フラメンコギターの源泉」と称されています。現代のフラメンコギタリストはみな、直接的または間接的にモントーヤの影響を受けていると言っても過言ではありません。

彼のギターのレガシーは現在も生き続けており、2022年にはアレハンドロ・ウルタド(Alejandro Hurtado)がモントーヤのオリジナルギター「ラ・レオナ(La Leona)」を使用して彼の作品を録音し、その音楽を現代に蘇らせています。

ラモン・モントーヤは、フラメンコギターを伴奏楽器からソロ楽器へと昇華させ、技術的発展と芸術的表現の可能性を広げた革命的な存在として、フラメンコの歴史に永遠に刻まれています。